【習慣化のコツ:前編】マインドセットで、理想の人物像への最短ルートを探る

うつみこころ

隠された本心を拾い上げるマインドマップ

マインドマップとは、紙の中央にテーマとなる事柄を書き、そこから枝分かれするように、連想したことをそのまま書き出していく思考の整理術です。

本来、人の思考はひとつの物事に集中することなく、色々な考えが浮かんでは消えてを繰り返しています。

脈絡なく浮かんでくるそれらを書き出し、枝葉のように線で繋ぐことで関連性を「見える化」する手法がマインドマッピングであり、「普段は気づかない自分の思考」に気付けることがメリットです。

日常において、物事が順序よく進むことはほぼありません。

通勤ひとつとっても、常に仕事のことばかり考えてはいませんよね。

手帳を開いて、
「今日の仕事の予定は…っと」

手帳を見ながら歩いていたら、
「そういえばこの店気になってたんだよな、今日の昼にまた来てみるか」

昨日の昼食を思い出して、
「昨日の昼に食べたラーメン、美味しかったなあ」

ふと暑いことに気がつき、
「それにしても、天気が良くて暑いなぁ」

ジャケットを脱ぎながら
「そろそろクリーニング出さないとな」

こんな風に色々なことを考えているので、次の瞬間には今考えていたことを忘れてしまいます。

マインドマップは、こうした思考の移り変わりをそのまま書き出すため、普段なら意識しないくらいの小さな「思いつき」を後から見返せるのが最大の特徴です。

自分が達成したい目的についてアイデアが浮かばないのであれば、ぜひこのマインドマップを活用しましょう。

例えば紙の中央に「私の理想の生活」というテーマを書き、朝は何時に起きたいか、昼にはどこへ出かけたいか、夜はどうやって過ごしたいか…などを思いつくままに書き出してみてください。

ある程度書き出した後にマップ全体を眺めると、「自分はこんなことがしたかったんだ」という気づきがあるはずです。

(思いつくままに書いた例がこちらです。細かいですが、ぜひ拡大してご覧ください。これくらい雑多で、整理されていなくても問題ありません。それでもなんとなく、自分の頭の中を客観的に覗き見ることができると思います。)

マインドマップの中から自分の「達成したい目的」を拾い上げ、それを達成するにはどんな習慣化に取り組むべきか、考えてみると良いでしょう。

目的達成までの「実現可能な」レールを敷く

目的がはっきりしたら、いよいよ習慣にすべきことを見つける段階です。

目的から大目標、大目標から小目標を設定する時には、自分に「それを達成するにはどうすればいい?」と繰り返し問いかけるとよいでしょう。

また、この記事で掲げている「目的 > 大目標 > 小目標 > 習慣」は4段階に分かれていますが、必ずしも4つに当てはめなくてはならない、というわけではありません。

達成のハードルが高い目的なら踏むべきステップも多くなりますから、大目標と小目標の間に「中目標」が必要になったりしますし、それがもっと増えたって構いません。
(もちろん反対に、「目的 > 目標 > 習慣」のように3段階になっても大丈夫です。)

大切なのは、身につけたい習慣から達成したい目的までのレールを敷くイメージ。進むべき道さえはっきりしていれば、途中で迷うことはありません。

ではここで一度、自分の目的と目標、取り組むべき習慣を明らかにしてみましょう。

紙とペンはありますか?

スマホのメモ機能でも大歓迎です。

次の4つの質問に答えて「習慣化のレール」が敷けたら、次の項に進んでください。

  1. 「達成したい目的」はなんですか?
  2. 目的を達成するために必要なステップはなんですか?(大目標)
  3. 大目標を達成するための、より具体的な目標はなんですか?(小目標)
  4. 小目標を達成するためには、日々のどんな行動が必要ですか?(行動目標 = 習慣)

習慣の内容は、目的に合わせて変えてよい

うまく「習慣化のレール」は敷けましたか?

ここで、ありがちな目標設定の失敗例をご紹介します。これは「実現可能な」レールではなくなってしまうケースです。こんな目標設定をしてしまっていないか、一度チェックしてみましょう。

Cさんは、「副業にしている動画編集のスキルアップのため、毎日勉強する」という目的と習慣を掲げ、動画編集の参考書を購入しました。

彼女は本業と副業で忙しく、まとまった時間が少ないため、まずは「毎日参考書を開くだけ」というスモールステップで始めようとしています。

しかし多忙なCさんは、「最初は隙間時間に本を開くだけだからいいけど、ゆくゆくはまとまった時間を取らないと勉強は進まないな…。でも、そんな時間を取れる予定は無いから、どうしよう…」と、今後の見通しが立っていません。

具体的にどうすればよいのか分からず、大目標と小目標の設定に行き詰まってしまいました。

上から順に目標・習慣設定をするメリットは、現実的な目標設定ができることです。ゴールとなる習慣を先に決めてしまうと、このメリットが得られません。

そのため、このような「目的」と「習慣」の間を埋めていくような目標設定は適切ではありません。

Cさんのように実現可能な目標設定に悩み、行き詰まってしまうからです。

Cさんの場合、まとまった時間が取れないことが現実的な目標設定に行き詰まる原因でした。一度「参考書を開く」という習慣は忘れて、目的から目標を再構築してみましょう。

問題をひとつひとつ解決していく

これらの質問と答えを整理し、【目的 > 大目標 > 小目標 > 習慣】に当てはめると、このようになります。

結果的に、Cさんに適していたのは参考書を使った学習ではなく、動画教材を観ながら実際に手を動かすことだったんですね。

このように目的から逆算すると、習慣にすべき事が最初と異なる場合も出てくるでしょう。

そんな時は、目的にあわせて柔軟に習慣の内容を変えるべきです。なぜならそれが、実現可能なレールの上にある最も現実的な方法だから。

このマインドセットを行わず、見当違いの習慣に取り組んでしまっていたかと思うとゾッとします。現実的ではないから挫折していた可能性が高い上に、なんとか継続できたとしても、目的達成への道を遠回りしているわけですから。

こう考える人は継続できない

メインパートを終え、ここからは補足情報としてマインドセットに役立つ様々なアドバイスをご紹介していきます。

まずは、こんな考えを持って習慣化に取り組むと継続できないという例を挙げます。

マインドセットの一環として、習慣化に取り組む前にこんな考えは捨て去ってしまいましょう。もちろん、代わりにどう考えればよいかについても触れていきます。

すぐに結果を求める

結果はすぐに手に入らない

習慣とは、できるだけ力を抜いて継続するためのものです。そもそも継続を前提としたものですから、即効性を求めてはいけません。

即効性を求めてしまうと、その先には2通りの失敗の結末が待っています。

  • 結果が現れないことで続ける意味を見失い、諦めてしまう結末
  • 結果が現れないことに焦ってしまい、目標のハードルを上げすぎて、挫折してしまう結末

そして、これらを解決するために長期の目標を立てれば良いのかというと、それも危険です。

なぜなら「期限がある」こと自体がやがて焦りを生み、2つ目の失敗と同じ道を辿るから。

ではどうすれば良いのか。それは継続すること自体を目標にすることです。

続けることだけに集中し、「毎日続けていれば必ず結果はついてくる」と信じて、愚直に、心穏やかに継続できる人が、習慣化に成功する人です。

完璧主義

完璧にできなくても、まずはやり遂げる

「完璧にやらないと気が済まない」のは、習慣化にとって最大の敵です。

習慣化において結果よりも継続が大切であることは、前項でお伝えしたとおり。完璧主義というのはまさに、結果を追い求めてしまう特性に他なりません。

1ヶ月、2ヶ月と継続する過程で、急な予定が入ってルーティンが崩れてしまったり、体調を崩してスケジュール通りにいかなかったりすることは、必ず起きます。

そんな時、完璧主義の人は、無理のある状況にもかかわらず「完璧にやらなくちゃいけない」というプレッシャーを感じて、行動を起こすハードルが上がってしまいます。

「たまには、目標を達成できなくてもいい」と考えられれば、行動のハードルは一気に下がります。

本を5ページ読むのを目標にしていても、時間が無いなら本を手に取るだけでいい。

2kmのランニングを掲げているなら、1kmに短縮していい。

そうすれば、やり終えた後の充足感を得ながらも、日々のイレギュラーにも対応することができるようになります。行動を起こすハードルも下げられるので、一石二鳥です。

もちろん、自分に甘えて良いというわけではありませんが、習慣化において、完璧主義は黄色信号。完了主義のマインドを持って、何よりも行動し続けることに重きをおきましょう。

継続はやる気の問題だと考える

勢いに任せず、仕組みを整えよう

私は冒頭で、「継続できないのはやる気の問題ではなく脳の機能のせいだから、仕組みづくりが大切」という主張に少し反論しました。

しかし、それはあくまで「マインドセットを行わずに仕組みづくりをする」ことの不十分さを指摘したものです。私は仕組みの力を借りるべきという意見には100%賛同しますし、私自身も、やる気や意思に頼っても習慣は身につきませんでした。

人は「変化」を嫌い、「いつも通り」を好みます。

行動心理学の分野において「現状維持バイアス」というものがあります。人は様々な場面においてこのバイアスに支配されており、例えば、

  • 馴染みの店で、普段頼まないメニューを頼もうとしても、結局いつもと同じものを頼んでしまう
  • 毎朝通るコンビニで、いつもと同じコーヒーを買わないとソワソワする
  • 電車が運転を見合わせ、別ルートで通勤するのをストレスに感じる

など、挙げればキリがありません。

『超習慣化』でウェンディ・ウッド氏も、「大学で授業をしていると、学生はいつもと同じ席に座ろうとする。私にとっても、いつも同じ位置に居てくれるから覚えやすい」という話をしています。

…私も、いつも同じ席で講義を聞いてたなぁ。
漏れなく現状維持バイアスに支配されてました。

新たな習慣という「変化」を起こそうと思ってもやる気がなくなってしまうのは、生き物として当たり前のことなんです。だから、やる気に頼ることはかなり危険。

意思が弱いこと、やる気が出ないことを恥じる必要はありません。マインドセットを終え、習慣化に取り組むここからは、存分に仕組みの力を利用してください。

【Tips】現状維持バイアスの「習慣」ver.

「現状維持バイアス」を異なる切り口で説明しているのが、習慣化コンサルタントである古川武士氏です。古川氏は著書『「続ける」習慣』で、これを「ホメオスタシス」「習慣引力」という言葉を使って説明しています。

ホメオスタシスとは、生き物が内外の変化から身を守るため、生理状態を一定に保つ機能です。

  • 暑い夏も寒い冬も、平熱を一定に保つ。
  • ストレスが溜まると発散したくなる。

この当たり前の現象をホメオスタシスと呼び、習慣引力とはいわば 『心のホメオスタシス』であると古川氏は言います。

この「心のホメオスタシス」が、行動心理学的に言い換えれば「現状維持バイアス」なのでしょう。

習慣化に取り組む前に知っておくと良いこと

今挙げたような考え方を捨て去ったら、次に知識として知っておくと良いことをお伝えします。

習慣化の道中に不安や迷いはつきもの。これを知っておけば、迷いなく習慣化の道を歩めるようになるでしょう。

習慣は段階的に作られる

習慣が身につくまで時間がかかることに、もはや説明は不要でしょう。

では、習慣はどのようにして身についていくのか。習慣化コンサルタント・古川氏は、繰り返し行う行動は、以下の3つの段階を経て習慣になると言います。

【反発期】

新たな習慣に強い抵抗を感じ、やめたくなる

【不安定期】

習慣が他の予定やイレギュラーに振り回される

【倦怠期】

慣れ、飽きを感じる

「続ける」習慣 – 古川武士(著)より抜粋

それぞれの期間ごとに、習慣化を阻む要因は変わる。それぞれに応じて適切な対処法も異なる。それが古川氏の主張です。

本記事では、さらに最初の段階としてモチベーションは高いが冷静な目標設定ができない「興奮期」を加え、解説していきます。

習慣化には段階があることを事前に知っておけば、自分は今どの段階にいて、何が習慣化を阻んでいるのかを客観的に理解し、状況に応じて適切な対処を取れます。

ちなみに、【0.興奮期】に実施すべき対策、つまりマインドセットについては、この記事で説明してきました。【1.反発期】【2.不安定期】【3.倦怠期】については次回の記事で解説しますので、順にお読みください。

では、段階ごとの具体的な失敗の要因を見ていきましょう。

興奮期

習慣化に取り組む前の準備段階。もっともモチベーションは高いですが、冷静でない時期です。

「興奮期」の勢いのまま習慣化を始めてしまうのは、ルートも距離も分からないマラソンを走り出してしまうことと同じです。

目指すゴールはどこにあるのか?
ゴールまで何kmあるのか?
給水所は?走る上での難所は?

これらの大切な情報を持たずに走り出すと、ペース配分を誤ったり、難所で諦めてしまったりすることは目に見えています。ひどい場合には、そもそも正しいルートを走ることすら出来ないでしょう。だって、ゴールがどこにあるのか分かっていないのですから。

そこで必要なのが、以下のような対策です。

「思い立ったが吉日」「善は急げ」と言いますが、習慣においてはすぐに行動に移せば良いというものではありません。習慣化は1日目からではなく、0日目の「正しい準備」から始まるのです。

【興奮期】の対策
  • 習慣化に取り組む目的を明確にする
  • 本当に身につけるべき習慣を知る
  • 適切な目標を立てる(詳しくは「適切な目標を立てる」で解説します)

反発期

(反発期から倦怠期にかけて、『「続ける」習慣』から引用し、ご紹介します。)

反発期では習慣引力がもっとも強く働き、古川氏によると4割もの人が最初の1週間のうちにやめてしまうと言います。

『「続ける」習慣』ではこの時期に起こる症状として、以下を挙げています。

  • すぐにやる気が落ちて3日坊主に終わる
  • 計画に無理があって、途中であきらめてしまう
  • 日がたつごとに行動が億劫になっていく

この時期にはハードルを極力まで下げたり、完璧主義を手放すことが有効です。

行動を起こすこと自体のハードルがもっとも高いため、「続けること」を一番に重視しましょう。

不安定期

反発期ではハードルを下げることで、少しの隙間時間しかなかったり、体調が優れなくても続けられるようにできました。

しかし、少し時間を長くしたり負荷をあげたりすると、なかなか融通がきかなくなるものです。また、急な予定変更などのイレギュラーに対応する必要も出てくるでしょう。こういった外的要因に振り回されるのが、「不安定期」です。

ここで現れる症状は、以下の通りです。

  • 決めた時間に予定が入ってサボってしまう
  • 残業やプライベートの予定で行動にムラが出る
  • 天候や急な予定で行動できない日が続く

ここで活きてくるのが、自分の生活スタイルに合わせた習慣化のプランや、イレギュラーにも対応できるような仕組みづくりです。

他の予定に振り回されることなく、日々の生活に組み込めるような工夫をしましょう。

倦怠期

習慣が身について来た頃、慣れてきたことでマンネリ感を感じたり、最初の頃の熱意を忘れてしまうことで訪れるのが「倦怠期」です。

古川氏が挙げる倦怠期の症状は、以下の3つ。

  • 飽きてきてやる気が出なくなるときがある
  • 習慣化の行動に意味を感じづらくなっている
  • マンネリ化し、物足りなさを感じる

これらを打破するには、行動に変化をつけることが有効です。運動の習慣を積み上げてきた人なら、トレーニングウェアを新調したり、スイミングなど新たな運動方法を取り入れてみたりすることをおすすめします。

ラストスパートを楽しむ工夫ができれば、ゴールは目の前です。

【反発期】【不安定期】【倦怠期】についての詳細な解説は、後編の記事にて!

【習慣化のコツ:後編】13の仕組みの力で、”ほぼ労力ゼロ”の習慣化!
【習慣化のコツ:後編】13の仕組みの力で、”ほぼ労力ゼロ”の習慣化!

習慣化にかかる期間は21日って本当?

「習慣化には21日かかる」という話があります。

これをご存じの方は、一つの目処として21日間の継続を目標とされるかもしれません。「習慣化は21日で達成される」というのが本当なら、習慣化を志す人にとっては大きな朗報です。明確なゴールほど励みになるものはありませんから。

しかし、残念ながらこの答えは「No」です。

この理論は、1960年代に心理学者のマクスウェル・マルツが、受けもつ患者たちの行動変化を観察した結果、脳が新しい行動を受け入れるのに約21日かかったという経験則から唱えられた「インキュベートの法則」というものです。

しかし現在では、科学的根拠が乏しいことが指摘されています。インキュベートの法則を否定する具体的なデータもあります。

ボランティア96人を対象にしたロンドン大学の研究1では、習慣化にかかる期間の平均値は66日(実際のデータは18日から254日)という結果でした。

また、南カリフォルニア大学の心理学者であるウェンディ・ウッド氏は、著書『超習慣力』の中でインキュベートの法則を「願望の意味合いが強く真実味はほとんどない」と一蹴し、さらに自身の実験で以下の結果を得ています。

身体に良いものを食べることを習慣にするには、ほぼ考えずにそうできるようになるまで65日ほど繰り返す必要があった。身体にいいものを飲む習慣については少々短くなり、59日かかった。だが運動は反対に、91日ほど繰り返さないと習慣と呼べるようにはならなかった。

やり抜く自分に変わる 超習慣力 – ウェンディ・ウッド(著)

この結果から、習慣化したい行動によって必要な期間は異なる、ということが分かります。

『「続ける」習慣』の古川氏も、習慣の内容ごとにレベル1から3に分け、それぞれの習慣化にかかる期間の目安について言及しています。

結局のところ、習慣化に必要な期間は場合によるということです。「とりあえず21日続けてみよう」とするのは避けるべきでしょう。

身につけたい習慣や、習慣のために使える時間などを踏まえて、自分にあったプランを立てるのがベスト!

習慣が身についた状態って、どんな状態?

今更ながら、「習慣」とは?

「習慣」を広辞苑で引くと、「日常の決まりきった行いのこと」とされています。そして多くの書籍やサイトでは、これに「無意識に行う」というエッセンスを付け加えることで、「無意識に行う決まりきった行動」を「習慣」と呼んでいるようです。

そこで疑問が浮かびます。

「いくらジムに通うことが習慣になったといっても、無意識にジムに向かい、無意識にトレーニングをして、気がつけば帰宅しているなんてことがあるのか?」

「仮に、無意識に行えるようになることを目標にするなら、何十年単位の時間が必要になるのでは?」

「私たちはどんなゴールを目指せばよいのか?」

ウェンディ・ウッド氏の『超習慣力』に、この答えを科学的に説明している箇所がありましたのでご紹介します。

神経科学者たちは、(中略)同じタスクを繰り返し行うと、脳の活動領域が変わり、自動的に反応するようになることを突き止めた。
具体的に言うと、最初にタスクを学習するときは、意思決定や実行制御が関係する領域(前頭葉と海馬)が活動した。ところが、繰り返すときは新たな領域が関係すると言わんばかりに、ほかの神経系の領域(被殻と基底核)での活動が増えた。

やり抜く自分に変わる 超習慣力 – ウェンディ・ウッド(著)

ここから言えるのは、習慣とは、脳が「よし、やろう!」と決断する必要がなくなるほど、繰り返し行われた行為であるということ。

「無意識に行う決まりきった行動」という定義よりも、こちらの方がイメージが浮かびやすいのではないでしょうか?

「習慣化された状態」とは、それを無意識に行えるようになることではなく、「行動を起こすハードルを0にした状態」である

習慣化の道を、上手く走り出すためのコツ

ここまでに、以下の3つをお伝えしました。

  1. 目的から習慣を逆算して設定する
    始めに「習慣化したいこと」を決めてはいけない
  2. 避けるべき考え方
    こう考える人は継続できない
  3. 習慣化に役立つ知識
    習慣化に取り組む前に知っておくと良いこと

最後に本項では、次回【仕組みづくり編】に先駆けて、マインドセットの段階から取り入れられる仕組みづくりのコツをご紹介します。

マインドセット編のゴールはもうすぐそこです。次記事から解説する習慣化の仕組みづくりに活かせるよう、最後の仕上げと思って頑張りましょう。

適切な目標を立てる

もはや言うまでもないことですが、適切でない目標を掲げてしまうと、達成したとしても望む成果は得られません。しかし「興奮期」であるが故に、立てた目標が適切かどうか判断するのは、意外と難しいもの。

次に挙げる「適切でない目標」を避けるようにすれば、必ず良い成果をもたらす目標が立てられるでしょう。

  • 現実的でない目標
  • 終わりがない目標
  • 過程に関する目標
  • 〜〜しない目標

順番に概要を見ていきます。

現実的でない目標

外的要因(時間や他人の都合など)によって実現が難しい目標が、これに当たります。

こんな場合には、外的要因そのものを排除する目標を立てれば、元の問題も解決するケースが多いです。

ここでひとつケーススタディをしてみましょう。

Aさんの仕事は残業が多く、いつも深夜に帰宅し、朝早くから出社しています。睡眠不足により、仕事のパフォーマンスが落ちてしまったため、普段から十分な睡眠時間を確保しようと決めました。

よくある不適切な目標の例がこちらです。

毎日7時間の睡眠時間を確保する

「睡眠時間が足りていないんだから、よく寝ることを目標に掲げるのは当たり前でしょ?」

と感じた方。もちろんその通り、その通りなんですが…。解決策にはなっていません。なぜなら、眠れていない原因(外的要因)を無視して、現実的ではない目標になっているから。

「残業が多い」という原因を解決しない限りは、そもそも睡眠時間を確保すること自体不可能です。ですから、視点を変えて目標を立て直してみましょう。

Excelを使いこなして、業務効率化を図ることで残業を無くす

Excelスキルの習得という目標が、外的要因を解決する案となっています。

Memo

さらに言えば、「Excelを勉強するための時間はどうするの?」という問題も浮かびます。その場合、隙間時間を有効に使う業務に可能な限り取り入れるといった対策が考えられますね。

目標を分解して、「現実的なレール」を敷いていきましょう。

本当の問題はどこにあるのかを突き止めるのが重要です。

終わりがない目標

ゴールが明確ではなく、抽象的な目標です。

目標を具体的な行動に置き換えることで、何をすべきか明確に分かるようになります。

模擬試験のミスを減らす

見直しを確実に実施する

「ミスを減らす」といっても、どこまで減らせば目標達成としてよいか分かりません。しかし、具体的に「見直しする」のような目標を掲げれば勝手にミスは減りますよね。

このように、結果につながる具体的な行動を目標にしましょう。

時間に関する目標

「時間」にかかわる目標は多くの場合、達成しても必ずしも結果につながるとは限りません。

時間ではなく、結果そのものを目標に置き換えましょう。

1時間勉強する

テキストの問題を50問解く

勉強机に向かったとしても、集中できずに1時間が経過してしまえば、身につくものも身につきません。

「⚪︎問解いた!」という結果そのものを目標にして初めて、その目標に意味が生まれます。ランニングなら「⚪︎km走る」、筋トレなら「スクワット⚪︎回」といった具合です。

(例外として、睡眠や瞑想などの時間経過に意味がある目標もあります。自分の立てた目標が「結果」に置き換えられないか、一度考えてみるとよいでしょう。)

〜〜しない目標

否定する目標は、それだけでは具体的にどう行動すべきか分からず不十分です。

「〜〜しないためにどうする?」のように、一歩踏み込んだ目標設定をしましょう。

仕事中にイライラしない

息抜きのため、1時間おきに休憩する

この「〜〜しない目標」は小目標行動目標には不向きですが、目的大目標のような大きめのマイルストーンには向いています。「〜〜しないためにはどうする?」の答えが、自動的に具体的な目標(小目標や行動目標)になるからです。

マインドセットの際に意識しておくといいでしょう。

ひとつずつ始める

「興奮期」でやる気に満ち溢れている時ほど、あれもこれもと挑戦したいことが浮かんでくると思いますが、同時に複数の習慣化にチャレンジすることはおすすめしません。

例えば筋トレ+ランニングを1セットで取り組む場合は、どちらか片方だけに取り組む場合より挫折してしまいそうなのは、簡単に想像がつきますよね。

両方の習慣を身につけたい場合、まずはどちらか一方の習慣化に成功してから、もう一方に取り組むのがおすすめです。片方に成功してしまえば習慣化のコツがつかめて、もう片方もかならず達成できますから。

また、片方ずつ取り組む場合のさらなるメリットは、先に身につけた習慣が、次に取り組む習慣の「トリガー」となること。

詳しくは次回の記事で解説しますが、新たに身につけたい習慣を、すでにある習慣と組み合わせてルーティン化することで、行動を起こすハードルをグッと下げることができます。

情報収集をする

習慣化において、事前情報があるのとないのとでは大違いです。

習慣化に成功したいなら、実際に成功した人に聞くことが一番です。手本とする人が見つかれば、下記の2つを意識して、自分の習慣化に取り入れてみましょう。

  • 正しいノウハウを学ぶ
  • 体験談を読む・聞く

正しいノウハウを学ぶ

正しいノウハウは挫折を遠ざけてくれます。

習慣化に取り組む過程を、自転車に例えて考えてください。

最初に漕ぎ出す時には力が必要ですが、一度スピードに乗ってしまえば(習慣化の仕組みができれば)走り続けることが楽になります。

しかし一度減速してしまうと、持ち直すのにはまた労力がかかります。

我流で取り組むことは、道なき道を漕いで行くことと同じです。減速しがちで、スムーズに進めないので、何度も意思の力で持ち直す必要が出てくるでしょう。その数だけ、挫折の危機に襲われます。

正しい習慣化のノウハウを知っておけば、舗装された道をテンポよく、スムーズに走ることができます。せっかく走り出した習慣化のスピードを落とさないように、事前にノウハウを学び、習慣化に取り入れてみてください。

体験談を読む・聞く

これは私が今でも実施している方法で、習慣化に取り組む興奮期から倦怠期まで、どんなタイミングでも有効です。

同じ習慣化に取り組む人の体験談からは、様々な情報が得られます。

どんなことに苦労し、どうやって乗り越えたのか知れば、そのまま自分が取り組む時の参考にできますし、同じ苦境に立った時の励みにもなります。

また、その習慣を身につけたことで生活がどう変わったかを知ることも有益です。充実した生活の様子を聞くだけでもワクワクしますし、新たな習慣にチャレンジしたいと思うきっかけも与えてくれるかもしれません。

そうやって「理想の自分」をどんどんアップデートしていき、その度に新たな習慣を身につけることで、あなたはあなたが思うよりも素敵な人になっていけるのです。

マインドセット編まとめ

まとめ
  • 習慣化の仕組みづくりだけでは不十分。なぜなら、本当に身につけるべきではない習慣に取り組もうとしているかもしれないから
  • 習慣化に取り組む前には、自分に必要な習慣を知ることが最重要!
  • 今取り組むべき習慣はなにか、目的から逆算する
  • 避けるべき考え方と、役に立つ知識を知る

以上が、習慣化の前に行うマインドセットの全貌です。

思いつく習慣を片っ端から身につけられるのなら、マインドセットは不要かもしれません。だって良い習慣は多ければ多いほど良いですから。

しかし、時間は有限です。1日は24時間しかありません。

良い習慣にも優先度というものはあり、それは人によって違います。

それなら、自分が目指す人物像にマッチした「習慣のデッキ」を組むべきだと思いませんか?

伝説のポケモンが強いからと言って、ファイヤーを水タイプのジム戦に連れて行かないですよね。同じように、いくら勉強は良い事とはいえ、読書のほうがためになる人だっています。

しかも自分に必要のない習慣は身につきづらいのですから、なおさら「どんな習慣に取り組むか」は重要です。この記事を頼りに、まずは自分が必要としている習慣を見つけていただければと思います。

習慣化の記事は、【仕組みづくり編】に続きます。

準備運動(マインドセット)を終えたら、いよいよ習慣化の道を走り始める時です。

仕組みづくり編では「いかに続けるか」、さらに言えば「いかにラクするか」についてまとめています。

せっかく良い志を掲げたのに、習慣化の道の途中で挫折してしまっては意味がありません。ゴールまでしっかりと走りきるために、ぜひ次回の記事もご覧ください。

次回はこちら!
【習慣化のコツ:後編】13の仕組みの力で、”ほぼ労力ゼロ”の習慣化!
【習慣化のコツ:後編】13の仕組みの力で、”ほぼ労力ゼロ”の習慣化!

参考

  1. 1. How are habits formed: Modelling habit formation in the real world ↩︎
  • 「続ける」習慣 – 古川武士(著)
  • やり抜く自分に変わる 超習慣力 – ウェンディ・ウッド(著)
  • 複利で伸びる1つの習慣 Atomic Habits – ジェームズ・クリアー(著)
  • さあ、本当の自分に戻り 幸せになろう – マーク&エンジェル・チャーノフ(著)
  • ゼロからわかる 知らないと損する行動経済学 – ポーポー・ポロダクション(著)
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うつみこころ
うつみこころ
元ギター講師 / ブロガー
音楽大学を卒業後、大手音楽教室のギター講師を勤めるも、コロナ禍の影響でレッスンが縮小し退職。ゼロからのキャリア形成に悩み、自己啓発に傾倒。得た学びを「セルフコントロール・ハック」として多くの人と分かち合うため、ブログを執筆中。
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